昨日のさようなら原発の集会から二つの発言を動画にアップしました。
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●地脇美和さん(福島原発刑事訴訟団事務局長)

 おととい、福島県Jヴィレッジからオリンピックの聖火リレーが強行されました。東京電力福島第一原発の事故はいまだ収束しておらず、原子力緊急事態宣言が今も発令中です。放射性汚染物は今も環境中に放出されています。「福島はオリンピックどこでねぇ!」 そして世界中もそれどころではない状況です。

 先日起きた東北地方の地震で、1号機3号機の格納容器の水位が下がっている。注水を増やしたという報道がありました。大きな地震や台風のたびに全国各地の原発を心配しなければいけない状況はいつまで続くのでしょうか? 10年経っても事故の実態解明も十分にできていないのに、各地で原発を再稼働しようとしています。事故後も変わらぬ安全管理に対する悪質さも浮き彫りになっています。日本はもともと放射性物質を総量規制する法律はなく、薄めればいくらでも環境中に放出することができるシステムになっています。そして核燃料デブリに触れた汚染水についても性能が不十分な処理施設で処理し、薄めて海に流そうとしています。海洋放出に反対する福島県内の自治体も多く反対の決議をあげています。全国の漁連も反対しています。署名は42万筆を大きく越え、海外からの反対の声が届いています。しかしその声は無視されています。

 原発事故後、様々な規制値や基準値は命と環境を守る最低限の役目を奪われ、恣意的に変更されました。厳重に管理することが当然であった核廃棄物の規制基準が80倍に引き上げられました。また汚染土を再生資源と呼び、全国に拡散しようとしています。原発を推進するため、情報は隠し、過小評価し、嘘をつき、お金をばらまき、調べない、教えない、助けないという本質は事故後も変わっていません。
 
 次に原発事故をめぐる裁判についてお話しします。福島原発刑事訴訟は2019年9月に元経営陣・全員無罪という不当な判決が出ました。事故前は「原発が絶対に事故を起こさない」「5重の壁に守られている」「安心だ」「心配する方がおかしい」と散々言われました。しかし裁判では東電の社員が危機感を持ち、津波対策の必要性が指摘されていたにも関わらず、元経営陣たちが多額の費用がかかることなどを理由にほとんど何の対策もしないまま原発事故に至った過程などこれまで隠されていた驚くべき事実が次々と明らかになりました。ところが原子力行政に忖度(そんたく)した判決は「原発には絶対的安全性は求められていなかった」として双葉病院の患者・遺族や被害者を踏みにじり、再び傷つけました。
 避難の過程で44名の患者さん達が悲惨な状況で亡くなられた様子も明らかになりました。裁判で証言された看護師さんは「原発事故さえなければ病院でお世話することができ、避難する必要がなく、亡くなることはなかった」と涙ながらにお話しをされました。判決は悲惨な原発事故を二度と起こしてはならないという反省はなく、誰の責任も問われず、原発の安全性を切り下げる不当なものでした。
 控訴審は夏頃と予想をしています。当日は皆さん是非、東京高裁前にお集まりください。民事裁判は集団訴訟だけでも約三十件。原告は1万人を超えています。仙台高裁と東京高裁で国の責任も厳しく認める判決が出ましたが、損害賠償額は低く、被害の甚大さに対して十分ではありません。

 特に避難者の方々はこの10年、ご自身の必死の努力によって生活の再建を目指してきましたが、中には避難先の公営住宅の提供が終了しても経済的・精神的な理由などから、新しい住まいを探すことができない方がたがいます。その人たちに対し福島県は退去をうながすため二倍の家賃を請求したり、裁判に訴えようとしたりしています。 親族の住所を調べ上げ、通知を出し、訪問して暗に圧力をかけるという事件もありました。被害を受けた福島県がやることでしょうか。

 また3月1日には子供脱被ばく裁判の判決が福島地裁ででましたが被ばくにさらされた子供たちを守るのではなく、国や福島県に忖度した不当な判決でした。先日3.11甲状腺がん子ども基金のシンポジウムがありました。当事者アンケートの結果報告や甲状腺がんを経験した若者たちの話がありました。体調不良や将来への不安のほか、県民健康調査検討委員会などで「過剰診断」論や「スクリーニング効果」と言われてることについての批判や反発も率直に語られていました。そして検査の縮小ではなく、検査と支援制度の拡充を望んでいる方やら自分の経験を伝え周囲の人に検査を勧めている方もいました。また他の当事者を思いやり、患者を支援する職業に就くことを目指し勉強していると話してくれた人もいました。

 原発事故の被害の上に次々と人権侵害がおきます。被害者抜きに、加害者である国や東電が一方的に様々なことを決めていきます。被害は見えなくさせられ、重要な情報ほど報道がなくなります。不の連鎖を断ち切り、諦めではなく希望を積み重ね、子供の目をまっすぐに見て未来を語れるように今一歩皆さんで力を尽くしていきましょう。今日はありがとうございました。

●大石光伸さん(東海第二原発運転差し止め訴訟原告団)


 東海第二原発運転差し止め訴訟原告団でございます。先週18日、水戸地裁は「東海第二原発は運転してはならない」と命じました。住民側の勝訴です。この判決は大変オーソドックスで、現行法の枠内ですべて判断しています。全文800ページにわたる判決文ですが今日は少し判決文を紹介させていただきたいと思います。

 判決は、前提事実として次のように言っています。 「原発の運転は人体に有害な物質を多量に発生させることが不可避で、過酷事故が発生した場合、周辺住民の生命・人体に重大かつ深刻な被害を与える可能性も本質的に内在するものである。原発の事故は高度な科学技術力を持って複数の対策を成功させ継続できなければ終息に向かわず、一つでも失敗すれば被害が拡大して最悪の場合には破滅的事故につながりかねないという他の科学技術の利用に伴う事故とは質的に異なるものである」。その後すぐに判決は、「実際に福島第一原発事故においては」として「汚染された面積」、「避難を余儀なくされた福島の皆さん」の数、「現時点でも故郷に帰れない方」の数、「関連死された方」の具体的な数を挙げています。

 「専門家の意見を尊重して規制が行われた。それにも関わらず福島第一原発事故が発生し、現実に周辺に居住する多数の者の生命・身体が危険にさらされ、生活の本拠を失うという甚大な被害をもたらした」。この判決文には、福島第一原発事故の重い事実、福島のみなさんの甚大な被害が、判決の前提事実として記されています。
 私たちも8年間の約30回のうちの3分の2の期日で毎回、冒頭で福島の皆さんがどんなことになっているのか、今どんな仕打ちを受けているのかを訴え続けました。証人尋問も9人のうち5人の原告住民の本人尋問を裁判長は認めました。被告の日本原電は住民の話など必要ないと主張しましたけれども前田英子裁判長は全員を認めました。そして判決は、このような福島の原発事故から教訓とすべきは、最新の科学的知見によっても本件発電所の運転期間内において、いついかなる自然災害がどのような規模で発生するかを確実に予想することはできない。つまり何が起きるか分からないので、深層防護の考え方が生まれ、福島第一原発事故の教訓を生かして改正制定された法規則が、国際的な基準を踏まえて深層防護の考え方を取り入れたものだと言うのであれば、その第一から第五の防護レベルのいずれかが欠落し、又は不十分な場合は原発が安全であるということはできず、周辺住民の生命身体が害される具体的危険性があると言うべきである。これが判決です。

 この判決の一部を取り上げて、被告や自民党は、1層から4層までの安全性は認められたと言っています。しかしこの判決の真意は1層から4層までの規制委員会の審査は予測困難なことの審査でしかないので司法としては審査過程の看過しがたい過誤・欠落は司法審査するけれども、その内容が本当かどうかは分からないと言っているんです。最新の科学的知見によっても何が起きるか予測することなどはできない。この判決は樋口判決と同じです。樋口さんも前田裁判長も、国際的な常識に則ってこの判決を出しているんです。

 確かに司法判断は社会の中の一つの判断でしかありません。それでも今回の判決は前田英子裁判長が「司法が現行法制下で判断できるのはここまでなの。ごめんね。この判決を利用して後は住民の粘り強い運動で頑張って原発止めてね。」そういうメッセージとして私たちは受け取りました。司法からも賽が投げられました。この判決を材料に地元、そして首都圏で議論を喚起し、各自治体でも再稼働には同意しない、そういう運動を広げて廃炉まで頑張ろうではありませんか。この首都の老朽原発を廃炉に追い込む実績を作ることが、全国の原発を止める一歩になり、福島の皆さんの思いに報いることだと思います。最後まで皆さん一緒に頑張りましょう。 
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